Spare Times

暇な時に書きます

思い出は未来の残骸【失恋手帖】

元カノにもらったものを捨てられないでいる。例えば、バッグ、財布、服や時計、それこそ身に付けるものはほとんど全て(プレゼントとして)買ってもらったので、捨ててしまうと買い直すのが大変に面倒くさい。そういった理由で捨てないでおくと、だんだん増えていくわけで、一緒に買った冷蔵庫やレンジなどの大きなものまであるから諦め、今はたぶん過去を引きずりながらの生活に、否応なく最適化されてしまっている。

 

過去に通り過ぎた様々な出来事について、僕はほとんど思い出すことができない。淡白なのかもしれない、執着心と、そもそも心がないのかもしれない。付き合っている際中ですら一度離れてしまうと相手の顔を忘れてしまう。「まゆみちゃん(仮名)かな? 」と思って話しかけるとだいたい別の人で、終いには財布の中に写真を入れ、それを見て顔を思い出すということをやっていた。当日使っていたスマホはレグザフォンという30年ほど前に動きが止まったような機種で、とにかく画面が動かなかったから。

 

当然相手は怒るわけだけど、うーん、そういう頭の構造なのだから仕方がないよと説明するといつも、電話越しで泣いていた。電話はしていても、僕は相手の顔を思い出すことができていない。顔の分からない誰か、どこかの誰かが泣いている。あなたは、誰だ。

 

電話が3時間ほど続いた後、相手が赤の他人のように思えて「じゃあ明日早いから」と雑な言い訳をしてから切って、電源を落とした。明日は休みだった。

 

大学時代に5年(1年休学していたため)付き合っていた彼女にしてもそれは同じで、最初の3年くらいは顔が分からなかったと思う。想像してみると、出てくるのは靄がかかったような顔。ある時そのことを打ち明けると、隣でむせび泣いていた。どうして泣いているのか僕は分からなくて、とにかく背中を摩っていたら見たい番組が始まったのでそのままテレビを付けて、バラエティ番組を笑いながら見ていた。横では、彼女が嗚咽していた。どうして泣いているのだろうか。

 

都内の出版社から内定の連絡をもらう少し前、LINEで唐突に振られた。「嫌いになったんですか」と聞くと、「好きではなくなった、というのが正しいかと」という他人行儀な会話が始まった。けど、たぶん付き合っていた時から他人だったのではないかな。5年という歳月も、他人を、そうではない関係に変化させるのは難しかったようだ。すれ違うことはなかった、けれど同じ方向を見ることもなかったように思う。

 

今も元気に暮らしていたら、あの時はどう思っていましたか? と聞いてみたい。振られた時は、自分も嗚咽してしまったが、感情が乖離した嗚咽には何の意味もない。いずれあの街に行けばまた会えたりするのだろうか。いや、もう会うことはないだろう。

 

思い出は未来の残骸だ。付き合ったばかりの頃に思っていたそれぞれの未来が重ならないまま、崩れ落ちてしまったものがここにある。思い出は未来の残骸。それならば、もう捨て去ってしまった方が良い。財布や時計をゴミ箱に詰めながら、次は何を買おうかと、iPhoneで調べながら考えている。