Spare Times

暇な時に書きます

烏丸御池という場所

西宮北口から梅田行きの阪急電車に乗って、途中、十三(じゅうそう)という駅で乗り換えて烏丸まで行き、京都市営地下鉄四条駅まで歩いたのち、そこから210円かけて烏丸御池という駅で降りる。ということを大学時代の彼女や友人と週に1度は続けていて、しかしほとんど一人で通っていたから誰かと共有する思い出ではなく、自己完結的な色合いの方が強い。

 

烏丸御池駅から出ると、道路を挟んだ向かいには大垣書店があって、目の前には名前を忘れてしまったが、スターバックスのような西海岸らしいカフェがあったから授業終わりでお腹が空いていたときはそこで食べるか、定食屋sotoという地下にある飯屋で腹を満たしていた記憶がある。近くにあったマクドナルドは日本家屋のような外観で、さすが京都と思ったものだが、ついぞ一度たりとも行くことはなかった。

 

駅から少し離れたところには知る人ぞ知るセレクトショップがあって、烏丸御池に行く目当てはそのお店だった。大学時代の思い出はそれしかないといっても全く過言ではないほどショップに通い詰めていた。もちろん服も買うのだけれど、ほんとうに楽しかったのは店員さんとの会話で、閉店時間を過ぎても話し込んでいたからたぶん4時間くらいはずっといて、普通のお店だとおそらく迷惑な客と見なされると思うが、店長はむしろ僕の長居を嬉しがってくれていたようで、この音楽を聴いた方が良いと言ってジョージィ・フェイムのCDをくれたし、様々な洋書も読ませてくれた。それからお互い贔屓のプロ野球チームが同じということもあって、赤い球団の話をそれこそずっとしていた。60年代のレコードがかかり、異国情緒あふれる店内はイギリスでいったことのあるお店に似ていたけど、なんせ場所は京都だし、店長もこてこての京都弁だったので、まさしく「異界」である。関西を訪れている著名人もよく来るお店だったので、何度か遭遇したが結局ひとことも喋ることができなかったのが今でも心残りだ。東京の本店で、京都店で会った人と再会したけど、また話すことができなかった。


Georgie Fame & The Blue Flames - Yeh! Yeh!

 

今でも折に触れて思い出すのは店長との会話で、彼は「瞬間」を大切にするひとだった。そんな人とはなかなか会ったことがなかったので黙って話を聞いていたのだが、彼の話のほとんどは、今でも僕が実践していることだから大切なことを学んだと思う。

 

イヤホンをしない、と言っていた。なぜですかと聞くと、だってイヤホンなんかしてたら日常の音を聞き逃してしまうやんか、本当に大切なことは案外日常のなんでもない瞬間に落ちてくるもんやで、と説明してくれて、それ以来イヤホンをすることがなくなって、その代わりにいくつかのものを得たと思う。

 

結婚式で写真は撮らない、と言っていた。なぜですか、と聞くと、だって必ず誰か撮ってるんやから後でシェアしてもらえばええねんと言い、僕がうーんという顔をしていると、結婚式で本当に大切なことはその場の空気をしっかりと目に焼き付けることで、それはレンズ越しでは難しいことだと彼は言った。それから僕は必要以上に写真を撮らなくなって、なるべく自分の目で見ることにしている(なんにしてもだ)。それ以外にも、彼は僕が京都大学の院に行こうか迷っていると相談すると、やはりそれは誰かを通して決めることではなく自分で決断することだと言った。今この瞬間しかできない選択だから大いに悩めと。

 

学生時代は本当に良い思い出がなかったけど、この烏丸御池での経験だけは良かったと言えるし、今度帰省した際には改めて、結婚おめでとうと言いに行きたいと思っている。僕のペンネームは、この土地と彼からもらった大切な時間が詰まっているので、付ける時にはあまり時間を要すことが無かった。今度は烏丸おいけとして烏丸御池を歩いてみることで、自分にしか分からない新しい瞬間を見つけていきたい。